宮沢賢治記念館の「大銀河系図」ドームについて(ページ2)  その他の話題へ戻る  
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3 製作原図作成のための計算
 「大銀河系図」ドームの原図を作成するために、ドーム内に配する恒星等の位置を求めなくてはいけない。このことについて、次の順に述べる。
 第1に、天体の位置の表し方について。第2に、ドーム内に配した恒星等の、「観測者の視点」に対する方位と高度を求めることについて。第3に、観測者の視点とドームの中心がずれているため、第2で求めた「観測者の視点に対する高度」を「ドームの中心に対する高度」に直すことについて、である。
 なお、使用している計算は、高校数学程度である。

(1)天体の位置の表し方
 天球上の天体の位置は、通常「赤道座標」と呼ばれる赤経、赤緯を用いた表わし方をする。地球の自転軸の延長線上、天球と交わった点を天の北極、天の南極と呼び、地球の赤道面と天球の交わった所を天の赤道と呼ぶ。天の赤道を赤緯 0゜とし、地球の緯度と同様に、天の北極を赤緯+90°、天の南極を赤緯−90°とする。
 一方赤経は、地球の経度にあたるものであるが、その基準を春分点におく。春分点は、天球上の太陽の通り道である黄道と、天の赤道が交わった点(2箇所)のうち、太陽が南天から北天へ横切る点である。そして、赤経が地球の経度と異なるのは、この春分点を基準として東まわりに1周を24h(時)で表すことである。これは、天球が約24時間で1周するため、角度で表すより便利だからである。赤経の1hは角度の15°にあたる。(図5) 天体の赤経・赤緯の一例をあげる。

 α UMi(北極星) 赤経 2h25.3m 赤緯+89゜14′(1994年、年初)
 太陽 (3月21日9時) 赤経0h00.5m 赤緯+0゜03′(1994年)

(2)ドーム内の恒星等の方位と高度
 前述したように、ドーム内の恒星は回定式なので、どのような星空にするか決定しなければいけない。斎藤氏はいろいろ検討した結果、天頂が赤経12h00m、赤緯+23゜26′の空がよいと結論され、またこれは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の銀河鉄道の通り道である、北十字「はくちょう座」から「いて座」、「さそり座」などの銀河系中心方向を経て「南十字座」に至る星座や、その他の作品に登場する賢治の愛した星座が、ほどよい位置に配されるように、との配慮がはたらいたためである。これについては、後にくわしく述べる。

 ともあれ、天頂の座標が12h00m、+23゜26′の星空(別の言い方をすれば、地球上北緯23゜26′の場所で、春分の日、午前0時の星空)の各恒屋の方位、高度を計算しなくてはいけない。
 赤経 α=a h b m、赤緯δ=±(c°d′)の恒星の方位、高度を求める。赤経、赤緯を角度で表すと、
式
 数値計算する場合、δの正負の場合分けに注意を要する。また、以下本文では、角度をdegreeで表す。

 さて、右手系直交座標で、天球を半径1の球とし、xy平面を地平面と考える。そしてx軸正の向きに赤経0h(α′=0°)、天頂に天の北極(δ′=+90°)をもってくると、この天体の(x,y,z)は、


  x=cosδ′cosα′
  y=cosδ′sinα′
  z=sinδ′

 となる。(図6) これは地球上の北極点で見た星空ということになる。

 次にこれを、北緯23°26′の地点で見た星空(つまり、天頂の赤緯が+23°26′)にする。
x軸正の向きを北と考え、上で求めた点(x,y,z)をy軸まわりに、z軸からx軸の方へ66°34′回転させる。(図7) この回転角をβとすると、
式

 天球上の点の方位角φを、北を0°とし、西まわりに360°までで表すとすれば、点(x′,y′,z′)の方位角φと高度βは、例えば、
式
と表すことができる(図8)

 以上で、設定した星空の、「観測者の視点」に対する、求めたい天体の方位、高度が求められた。

(3)ドームの中心に対する高度
 (2)で求めた高度から、直接ドームの原図を作成することはできない。そこで、ドームの中心に対する高度を求める。(方位は同じ)

 求める高度をθ′とすれば、図9より正弦定理を用いて、
式
となる。
 θとθ′の違いを図10に示す。

 以上の計算を、全天1200個の恒星について行い(実際は、それ以上で、θ′<0となったものを除くことになる)、さらに星雲・星団、銀河系、経緯線、黄道などをえがいて、製作原図は完成した。
図5
図5
 
図6
図6
 
図7
図7
 
図8
図8
 
図9
図9
 
図10
図10
 



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