21世紀に香る手製パン



  『とびっきりおいしいパンが簡単に買える時代に、おばあちゃんは
相変わらず手で練ったり、たたいたりのパンを焼いています。腕力の
あるうちに君達にも披露しておきます』
  こんな添え書きをして、パンとクッキーを宅急便で孫達に送った。
腕前は稚拙、いつも変わり映えしないパンだけれど、自分では気に入って
いる。納得のいく材料とゆっくり発酵させる十分な時間、添加物は一切なし。
それが取り得だ。
  ぜいたくに慣れた今の若者に受け入れられるかどうか。ちょっぴり
不安だったけれど、「娘はなつかしがろうから」と踏みきった。
  やがて娘からの手紙。「大学生のラガーマンは夜食に、高校生
の次男はハムときゅうりを挟んで、3男は部活の後のおやつに。
みんなすごい食欲でたちまち食べてしまいました」とうれしい返事が
届いた。
  宅急便で指定した時間内に届き、保冷庫もあるご時世。流れに
乗り損ねるとどんどん世間知らずになってあっという間に21世紀だ。
  きれいにふきあげた道具一式を納戸にしまい込む心づもりだったけれど、
古いオーブンを見ているうちに、考え直した。「がんばって21世紀も
パン焼きを続けようか」
   発酵を待つ静かな時間、次第に膨らみながら独特の香りが漂う
キッチン。ふっくらと豊になっていく生地を眺めるひとときが、私の至福
のときだ。親指の付け根が少々痛む。老化の兆し、それとも張り切り
過ぎかな。気にしないで一歩前に踏み出そう。